この時期は不登校になる子が増えます

主な原因は、生活リズムを立て直せないままぐずぐずしている、勉強に気が進まない、気の合わない友達がいる、などです。そんなこと言わずにちゃんと学校に向かって欲しい、そう思う親は少なくないでしょう。

中学生は多様性を受け入れる土台が整っていない

中学生はまだ『自己形成』のスタート地点に立ったばかり。自己形成ができていない中学生が、無理に多様な環境に放り込まれると、受け止めきれずに混乱することにもなります。クラスの雰囲気になじめず、不登校や別室登校を選択する生徒の背景には、こうした理由が隠れているわけです。 
 
自分とは違う価値観を受け止めたり、異質なものの中に強みを発見できるようになったりするのは高校生以降です。自分とは違う異質なものを受け入れるなど、多様性を受容できるようになるためには、自分はこういう人間なんだと理解する『自己形成』が不可欠です。
 

中学生は自分自身を形づくる「自己形成」のスタート地点です

 子どもの友達関係を見て「似たような友達ばかりだな」「趣味の話など当たりさわりのない話題ばかりだな」と思うことがあるかもしれません。実はこうしたライトな友達づきあいこそが、自己形成のスタート地点にいる中学生にとっては非常に重要です。

 小学校の高学年くらいまでは、自分と親や先生との縦の関係が人間関係のメインです。ところが高学年以上になると、縦の人間関係から友達や部活の仲間、クラスメートなど横の人間関係が中心になります。そして、中学以降の子は、横の人間関係からのフィードバックによって、自分自身を形づくっていきます。

 たとえば、のんびりしている、楽観主義、努力家、心配性……。自分の行動に対する友達からのフィードバックや、友達との比較によって、中学生は「自分はこういう人間だ」と理解していきます。そうして形づくられる自己を土台として、人は他者を受け入れたり、自分の進むべき方向を定めたりしていきます。そのためこの時期の自己形成は非常に重要です。

中学生は親よりも「友達」「先輩」が大事
 他人からのフィードバックを得て自分を形作っていく、いわば鏡に映った自己を形成するには、小学生までのような縦の人間関係ではなく、横の人間関係での関わりが必要不可欠です。
 ただ、中学生の横の関係は登場人物が多いです。クラスメートが30人近くいる場合は、6クラスあれば200人近くにもなります。中学生は、そんなに膨大な人からのフィードバックを受け止められる段階にはありません。

ですので、この時期は同じような趣味や考え方の生徒と仲良くなる、『同質性の高い仲間』といる時間が長くなります。親から見たら『同じような友達とつるんでいるな』と感じるのは、このためでしょう。

 ですけれども、中学生時代を自己形成のスタート地点と とらえた場合、フィードバックをしてくれて比較の対象でもある『同質性の高い仲間』はとても大事な存在なのです。

ですけれども、表面的に楽しそうに見えても「心理的な結びつきはそこまで強くない」のが、中学生の人間関係の特徴でもあります。

 友達と過ごして心から楽しめているケースももちろんあるでしょうが、さして一緒にいて楽しいわけでもないけれど『ぼっちは嫌だ』という理由で表面的に同調しているケースが意外と多い、というのがこの世代の特徴です。

どちらかがいい悪いというわけではなく、表面的であったとしても、自分を受け入れてくれる場があるという事実が、この時期の中学生、特に1、2年生にとっては承認欲求を満たし、安心感につながるという意味でも必要なことです。

子どもは大人が見つけられない「友達のよさ」という価値観を知っている

 「同じ部活をがんばる仲間」「好きなことが一緒の友達」など、具体的で分かりやすい価値観を仲間と共有することで自己を形成し始める中学時代を経て高校生くらいから、より抽象的で複雑な価値観を受け止められるようになります。

 そして高校生になると『あいつとは性格や考え方が違うけれど、今、目指したいことは共通している』などと、多様な人間を受け止める土台ができてきます。成績が上位の生徒と下位の生徒や、スポーツ好きな生徒とインドアな生徒など、大人から見ると一見気が合わなさそうな生徒同士でも仲良くする姿も見られるようになります。高校生を見ていると『あいつはココがすごいんだよ』と、大人が持つ価値観とは別の尺度で、大人が探し切れてない強みを同級生同士で見つけているケースがあります。

『心理的な結びつきが強くない』中学時代と違って、価値観や将来の目標、ありたい姿など、より大きな概念を共有して仲良くなれるのがこの年代です。

 そしてこの時期に、自分とは異質な人や、違う価値観を持つ人の中から『強みを見つける目』を持てていると「多様性を尊重でき、視野が広がることにもつながることになります。

中学時代は、友達関係から子どもの強みを言葉にしてあげることで自己形成を進め、多様性を受け入れる土台をつくる

 こうした「強みを見つける目」は、常日頃から親が子どもの強みを言葉にしてあげることで、子どもも身につけることができます。
  親が子どもの強みに気付いて、それを言葉で伝えられていた子は、自分自身の他の強みや、周囲の人間の強みにも気付きやすいといえます。父親は行動や結果など目に見えやすい強みに気付きやすい一方で、母親は子どもの性格など、内面の強みに気付きやすいです。

 「あなたがいるだけで場が明るくなる」「周りをよく見て行動している」など、数値や評価では測れないその子の強みを伝えてあげることで、子どもも周囲の人間の強みに気付きやすくなり、それがその子自身の視野を広げることにつなります。

  親が伝えられる強みにバリエーションが出るほど、子どもも多様な強みに気付くことができるようになります。子どもが学校生活や友達のことを話し始めたときに、親は聞き役にまわりつつ『それいいね』と思ったら、ぜひ言葉にして子どもに伝えてみてください。最初は慣れなくとも、慣れてくるとすぐに『それいいね』が見つかるようになります。 

東大合格者全国一の開成高校

中学で学年トップだった子が、入学後、半数が平均以下と評価される一方で、どうして文化祭にも強いのか、どうして成績トップの子を認めて、自分は自分の強みを活かせるのか、その理由がここにあります。

勉強が得意でずっと成績上位だった生徒が、進学校に進んだら順位が落ち込んでしまう、というのは誰にでも起こりうることです。その際に、本人が自分の強みの多様性に気づけておらず、仮に『成績』という尺度のみで自尊心を育んでいたら、そのままポッキリ折れてしまうかもしれません。親も同様で、子どもの強みに対して多様性を持てていなかった場合、子どもを支えるどころか共倒れになる可能性もあります。

 異質な他人の中にも強みを発見し、多様性を受け入れる能力があれば、自分の中の多様性にも気付けるはず。そういう人は、挫折経験があっても立ち上がって進んでいくことができます。

限界を超える生徒たち

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